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【前編】浜松市では、官民連携でデータ連携基盤を活用したサービスの実装に取り組んでいます!

浜松市では、異なるシステム間のデータを相互に利用できるデータ形式に変換する機能を持つ「データ連携基盤」を活用することで、地域の課題解決や活性化を目指しています。

2022年度に、データ連携基盤を活用したサービスの実装に向け、浜松市とともに取り組む4社について、2回にわたってご紹介します。

「データ連携基盤」とは?

データ連携基盤とは、行政データ、民間保有データ、センサーデータなど、さまざまなデータをかけあわせ、官民がともに利活用できるようにする中核となるシステムであり、地域の課題解決や活性化に繋がるサービス創出への活用が期待されています。

浜松市では2022年度に、データ連携基盤を活用したサービスの実装に向けて取り組む民間企業などに、その必要経費を補助する「データ連携基盤活用サービス実装支援補助金事業」(以下:データ連携基盤活用事業)を実施しています。

今回の記事ではデータ連携基盤活用事業に採択された、一般社団法人One Smile Foundationと、八千代エンジニヤリング株式会社の2社の取り組みを紹介します。

全国初の事業アイデアの提案を受け、中長期的な視点から浜松市に必要なサービスを考える


笑顔の見える化で社会課題の解決を目指すOne Smile Foundation

まちに笑顔があふれることで社会問題が解決できたらどんなにいいでしょう……? 実は笑顔の創発は、犯罪や孤立、自殺、心の病、虐待といった社会課題の解決や、地域コミュニティ活性化や健康促進、予防医療といったWell-being向上に貢献できると期待されています。

そんな発想から、計測した笑顔の数に応じて寄付がなされる仕組みを作るのが、一般社団法人One Smile Foundationワン・スマイル・ファンデーション(本社:神奈川県横浜市、以下:One Smile Foundation)です。

One Smile Foundationは、2021年度の浜松市データ連携基盤活用モデル事例創出事業「Hamamatsu ORI-Projectハママツ・オリ・プロジェクト(以下:ORI-PRO)で笑顔とWell-beingには強い相関があることを検証したのち、データ連携基盤活用事業においてスマホやタブレットで笑顔をカウントできる笑顔寄付アプリ「スマイラル」を開発しました。スポンサーから集めた資金が、「1笑顔=1円」で子ども食堂に寄付されます。そんな「スマイラル」のリリースを見据えた実証実験が、全国ではじめて浜松市で行われました。

笑顔の見える化は笑顔の増加やユーザー満足度の向上に繋がる

2021年度のORI-PROでは、まず笑顔の計測と見える化の効果を検証しました。健康事業や健康経営に取り組む市内の4社、計7拠点にAIカメラを設置し、笑顔の「回数」「発生時刻」「発生した場所」の3項目を計測し、取得したデータをデータ連携基盤に登録しました。

その後、慶應義塾大学の幸福学研究員による監修のもと、計測したデータから笑顔とWell-beingの相関性を分析。「他者との繋がり」や「人生の満足」といった7項目において、笑顔の意識が高いほど幸福度も高くなる傾向が確認できました。

2022年度のデータ連携基盤活用事業では、「スマイラル」を開発し介護施設で効果を検証しました。検証の結果、サービス化において2つの道筋が見えています。

1つは、入所者の笑顔を通知する見守りサービスの方向性です。入所者の笑顔を検知するとスマホから家族などに通知が届き、安全で楽しく過ごしている様子がわかります。

もう1つは、支援プログラムの効果を測るサービスへの応用です。レクリエーションやケアなどのプログラムが、入所者の心身の健康に寄与しているかを計測し、プログラムの改善に役立てます。

そのほか、プロバスケットボールチームの三遠ネオフェニックスから協力を得て、試合会場における笑顔の計測も行いました。笑顔と試合結果の相関性やイベントの満足度を測るなど、「スマイラル」の可能性が広がっています。

介護の現場を支える“浜松モデル”のサービスとして普及を目指したい

One Smile Foundation代表 辻早紀さん

One Smile Foundation代表の辻早紀つじはやきさんに、データ連携基盤を活用した事業参画について感想を聞きました。

─── 一連の取り組みに参加して、どのような成果が得られましたか?

辻さん:施設を利用する高齢者の方々は、支援を受けるだけの立場に陥りやすく、生きがいや存在価値を見失いやすいですが、弊社のサービスを通じて支援する側にもなれることで、SDGsにある「誰一人取り残さない社会」の一つのかたちを形成できたと思います。自分の笑顔が寄付となり、支援を必要としている人たちへの助けとなると知って、高齢者や介護士の方々の積極的な笑顔が増え、コミュニケーションが促進し、社会参画の意識も高まったのです。笑顔を見える化すると共助意識が高まることを検証できました。

「スマイラル」で目指しているのは、「人々が幸せになればなるほど、社会が勝手に良くなっていく仕組みづくり」です。人々の笑顔によって世界中から貧困や経済格差をなくせる仕組みに、一歩近づけたようでうれしく思います。

─── 取り組みの中で一番印象に残ったことは何ですか?

辻さん:介護施設の利用者さんはもちろん、職員の方に熱烈に応援いただいたことですね。スマイラルで笑顔を計測・見える化したところ、職員さん同士のコミュニケーションが促されるという意外な効果もありました。みなさんのお仕事に少しでも貢献できたかと思うと、やりがいをとても感じます。

幸福度ランキング1位(※)の浜松市において、スマイラルの有用性を検証でき、サービス化を進められることは何より意義の高いこと。浜松市で介護モデルをしっかり事業化し、浜松発のサービスとして全国に広げていけるようにしたいと考えています。

※全国20政令指定都市の幸福度ランキング2022年度版(一般社団法人日本総合研究所)より

河川に流出する人工系ごみの実態を把握し、散乱・不法投棄による海洋プラごみ発生ゼロのまちを目指す八千代エンジニヤリング

海洋に流出するプラスチックごみは年間800万トン(※)にのぼるとされ、海の生態系や景観に悪影響を与えています。2019年6月に開催されたG20大阪サミットで日本は、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロに削減することを提案しました。しかしながら、量や経路などプラスチックごみの排出実態がそもそも掴めていないことが課題となっています。

そんな中、総合建設コンサルティング業の大手、八千代エンジニヤリング株式会社(本社:東京都台東区、以下:八千代エンジニアリング)がデータ連携基盤を活用した事業構想に参画。浜名湖を含む海域へ流出するプラスチックや空き缶などの人工系ごみ(草木や土砂など自然的に発生する「自然系ごみ」と区別した呼び方です)の輸送量について実態を把握し、改善策につなげるサービス開発に取り組みました。中区萩丘1丁目を起点に全長5.2キロメートルになる段子川だんずがわの4地点にて川ごみのモニタリングを実施し、河川に流出した地点毎の人工系ごみの量を計測することに成功しました。

※Jambeck, J. R., Geyer, R., Wilcox, C., Siegler, T. R., Perryman, M., Andrady, A. and Law, K. L.: Plastic waste inputs from land into the ocean, Science, Vol.347, Issue 6223, pp.768-771, 2015. より

人工系ごみを判別、川ごみの輸送実態を正確に把握する

2021年度のORI-PROでは、ビデオカメラを橋の欄干らんかん(転落防止のために設置される柵のこと)に設置し、水表面を撮影した動画データを用いて、人工系ごみの輸送量を把握しました。東京理科大学 二瓶教授、愛媛大学大学院 片岡准教授が開発した「RIAD(読み方:リアド、River Image Analysis for Debris transport)」という画像解析技術を用いて、自然系ごみと人工系ごみを判別しました。段子川、鴨江排水路の2河川2地点で人工系ごみの輸送量データを収集し、データ連携基盤上に登録することができました。

その後、2022年度のデータ連携基盤活用事業では、サービス化を見据えたより詳細な実証実験を重ねました。対象河川を段子川に絞り、4地点で河川から排出されるごみのデータを取ることに。結果は地点間でごみの量に違いがみられ、次なる対策を考えるためのデータが取得できました。

現在は、河川に流出したごみと地域特性との関係性を探るべく、地域の清掃活動の状況や河川の植生、水路沿いのごみ集積所設置状況など、あらゆる要素を洗い出しています。2023年2月に地域住民に、本プロジェクトについて紹介し、どのようにごみを減らしていくかといった具体的な対策についてご意見を伺いながら、検討を進めています。

美しい海を取り戻すために今やるべきことに真っすぐ取り組む

写真左から、吉田 拓司さん、柴田 充さん、坂本 賢彦さん

八千代エンジニヤリングの事業開発本部 第一開発室 専門部長 柴田 充さん、環境計画部 技術第一課 シニアコンサルタント 吉田 拓司さん、事業開発本部 開発推進部 プロジェクト推進課 シニアアソシエイト 坂本 賢彦さんに、データ連携基盤を活用した事業参画について感想を聞きました。

─── 一連の取り組みに参加して、どのような成果が得られましたか?

柴田さん:2021年7月にはRIADの販売も開始し、河川に流出している人工系ごみのデータが取れ始めてきました。海洋プラスチックごみゼロを目指し、どんな対策を行うべきかを検討するために、まずは川ごみをモニタリングして河川にごみが流出している要因を突き止めることが必要です。その点において一定の成果が見え、次なるステップに進めたのは大きな成果です。

坂本さん:河川沿いに設置したカメラは電源を取りづらい環境にあるので、電池を節約しながら効率的にデータ収集を行わなければいけません。2021年度に、雨が降っていない晴天時よりも、降雨時にごみが多く流れていることを確認したため、2022年度は降雨後にデータを多く収集できるようにシステムを改修しました。この仕組みにより、2022年度はより効率的に河川ごみのデータを収集できました。

─── 取り組みの中で一番印象に残ったことは何ですか?

吉田さん:実際の河川にカメラを設置してRIADによるデータ収集をさせていただいたことは、大変意義ある取り組みになりました。私自身、海洋プラスチックのない世界を作りたいと本気で考えていて、解決の糸口を見つけようと東京理科大学の博士課程に入学しました。そこで理工学部土木工学科・二瓶泰雄教授にご紹介いただいたのが「RIAD」です。

「これは、海洋プラスチックの問題解決に必要な技術だ」と確信し、サービス化を目指してデータ連携基盤を活用し、見える化・対策を含めた実証実験のできるフィールドを探してきましたが、なかなか見つかりませんでした。

海洋プラスチックの問題は、解決する(対策の効果を得られる)まで長い時間がかかるため、行政が向き合う課題としては緊急度が低くなりやすく、そもそも実態把握から対策案の検討までが開発段階であるため、行政での展開が難しい状況でした。そんな中、全国で初めて我々の目指したい姿(散乱や不法投棄されているプラスチックごみをゼロとするまち)に共感いただき、実証実験に採択いただいたのが浜松市様でした。

「たしかに解決まで時間はかかりますが、海洋プラスチック問題への取り組みは市の未来にとって重要なことです」と、中長期的な視点で私たちの取り組みを支援してもらえたのは、大変励みになりました。データを集めるだけで終わらせず、プラスチックごみゼロに向けたサービスを必ず開発しよう、と改めて私たちのミッションを認識しました。

柴田さん:取り組み中で、もっともやりがいを感じたのは、市民の方の生の声を聴いたときです。データ計測を行った地点の周辺地域にも足を運んでみると、浜松市中区の富塚地区では住民の方が定期的に清掃活動を行っていました。

坂本さん:私たちも清掃活動に参加させていただくと、2メートル強のホースが落ちているなど、一体どこから運ばれてきたのかとあぜんとしてしまう状況でした。清掃活動に携わってきた地域住民の方は、「清掃活動を続ける中でごみは減ってきていると感じますが、いつまで経ってもゼロにはなりません。ごみがどこから来るのか分からないんです......」と仰います。

柴田さん:浜松市は、雄大な河川があり、湖があり、海がある水資源の豊かなまちですね。地元が誇れる美しい海、そして海洋プラスチックを出さないまちというビジョンが、市民のWell-beingに繋がると信じています。私たちは引き続き責任をもって本事業に取り組み、浜松市様の環境保全に貢献していきたいと思います。



【前編】では、一般社団法人One Smile Foundation、八千代エンジニヤリング株式会社をご紹介しました。【後編】では、「市街地の冠水予測サービス」の株式会社オサシ・テクノスと、「斜面変異の簡易監視サービス」の株式会社フジヤマをご紹介します。

浜松市とともにデジタル・スマートシティの取組を推進する事業者を募集中

浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォームは、官民連携でデジタル・スマートシティ浜松の取組を推進していくプラットフォームです。本プラットフォームでは、デジタルを活用し、市民生活の質の向上や地域課題の解決に一緒に取り組んでくださる事業者の皆さまを募集しています。

ぜひ以下のページよりご参加をご検討ください。


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