地域企業とICT企業の共創を促し産業のDXを推進! 企業誘致の取り組みについてウェビナーを開催しました
産業の飛躍的な成長に欠かせないDX(デジタルトランスフォーメーション)。日本では大手企業を中心にDXが進みつつある一方、中小企業における取り組みについては、まだ伸びしろがあります。
そんななか浜松市では、ICT(※)企業の誘致により地域産業のDXを促進する取り組みに力を入れています。その紹介の場として、2024年11月25日(月)に「浜松市ICT企業誘致による産業DX推進に関するウェビナー」を開催。
実際に浜松市で拠点を開設したICT企業の5社をゲストに迎え、地域のDXや共創が進むことで創出される新たな可能性について議論しました。
本記事では、企業立地推進課が当日の様子をお伝えします。
浜松市がICT企業の誘致に力を入れている理由
自治体が行う企業誘致と聞くと、短期的・経済的なメリットが注目されやすいかもしれません。しかし、浜松市が進めるICT企業誘致は、ICT企業と地元企業が共に豊かになる中長期的な関係づくりに重きを置いた取り組みです。
本取り組みの背景について、浜松市企業立地推進課 課長の瀧本陽一(以下、瀧本)は、次のように説明します。
瀧本:多彩なノウハウやスキルを持つICT企業を浜松市に呼び込むことで、地元企業との「交流」「共創」「連携」を誘発し、地域産業全体のDXを推進したいと考えています。
とくに、浜松市における製造業の事業所数は静岡県内1位であり、完成品メーカーから広がる産業の裾野も広いのが特徴です。そこへICT企業が技術やサービスを提供することで、地域の人材育成や製造業全体の成長を後押しできると考えています。
つまり、ICT企業と地元企業がお互いのよいところを生かしあい、共に成長できるような産業のエコシステムを形成することが、本取り組みの目標です。
なぜ、浜松市は官民連携の新規事業が進むのか? ICT企業が拠点開設する4つのメリット
浜松市は、ICT企業が新たな拠点を構えるうえで、多くの魅力的な要素を備えています。その特徴を見ていくと、以下4つのポイントが挙げられます。
1. 挑戦者に対するウェルカムな風土:「やらまいか精神」と呼ばれる志を応援する風土と“よそ者”を受け入れる寛容性が、多様な産業の創業と成長に貢献
2. 地域産業との連携を促進する仕組み:浜松市と連携した支援機関やコミュニティの活用が可能であり、金融機関から補助金の利活用や資金調達の相談についてサポートも見込める
3. 地理的な優位性:東京と大阪のほぼ中間に位置し、生活者・消費者の属性が全国平均と近いため、テストマーケティングや物流拠点として好適地になりえる
4. 潤沢な人材供給力:域内には情報技術分野を学べる教育機関が10校以上(高校・大学・専門学校など)存在し、近隣地域も採用マーケットに含むため、IT人材の採用が比較的進めやすい
株式会社日本総合研究所 プリンシパルで浜松市フェローの東博暢(以下:東)さんは、企業の他地域展開において自治体の政策に目を向ける重要性について触れました。
東さん:浜松市は『市民のWell-Being向上』をまちづくりのゴールの一つに掲げ、オープンイノベーションの基盤や産業育成の政策など、国策レベルの仕組みづくりを行ってきました。
そのうえでテーマ別にコンソーシアムやワーキンググループが立ち上がり、意見交換の場で「地域の課題解決に取り組もう」と参加企業同士の協業が決まり、「浜松らしい事業」が次々と生まれているのです。
東さん:直近では、国の「デジタルライフライン全国総合整備計画」において、浜松市の天竜川の上空180kmがドローン航路の実装フィールドに採択され、注目を浴びました。後ほど登壇する株式会社トラジェクトリーほか、3社が浜松市と共に全国モデルの策定に取り組んでいます。
このように、地域のエコシステムに飛び込むことで、さまざまな共創と連携が生まれていく。イノベーション創出が期待できるフィールドが浜松市だといえます。
ICT企業5社に聞く、浜松市進出の決め手や成果について
続いて、実際に浜松市に拠点を開設した5社から、拠点開設の経緯や決め手、事業展開上のメリットなどを聞きました。
1.【事業拡大 モノづくり×ICT】株式会社エスマット
株式会社エスマットは、在庫数を“重さ”で計測するという斬新な技術によって、在庫管理にまつわる課題を解決するスタートアップです。浜松市での拠点開設後は、DXセミナーの開催により地元企業との接点を持ち、一般社団法人製造DX協会を設立するなどの活動を展開しています。
林英俊(以下、林)さん:私たちが浜松市を選んだ理由は、日本企業に最適な様式である「日本式製造DX」のモデルを作り上げるのに最適な地だと考えたためです。
浜松市は、日本を代表するメーカーの創業の地であり、偉大な中堅・中小製造業の裾野も広がっています。浜松から日本の製造業に最適なDXの新思想やベストプラクティスを提案し、製造業のさらなる超越を下支えできるよう成長していきます。
2.【事業拡大 モノづくり×ICT】株式会社スカイディスク
AIを活用した生産計画の自動生成および生産管理サービスを提供する株式会社スカイディスクは、製造業のニーズに応える最適なフィールドとして浜松市を選定しました。
後藤健太郎さん:私たちが浜松市を進出先として選んだ背景には、これだけ多くの製造業の皆さんに出会えるまちはないと考えたことがあります。
近年は、開発会社といえどもシステムを作って売るだけではなく、導入や運用を含めた顧客支援が求められるようになりました。そうした市場環境においては顧客の声を聞くことが重要であり、新しいことに対して前向きな経営者が多い浜松市のビジネス環境は営業活動の追い風になっています。
3.【人材確保 M&A/事業継承】テクバン株式会社
SIerとしてシステム開発やインフラ構築などを手掛けるテクバン株式会社は、エンジニア採用において首都圏に代わる採用マーケットを求め、浜松市への拠点開設を検討しました。
後藤昌貴(以下、後藤昌)さん:同業である浜松市の株式会社ソフィアが会社譲渡を検討しているという知らせをもらったことが決め手となり、2024年6月にソフィアをグループに迎え、従業員およそ50名で浜松の拠点をスタートしました。
後藤昌さん:ICT企業で働きたいニーズが豊富で、隣接する地域に住む方が「浜松で働きたい」と応募してくる場合が多く、拠点開設からおよそ5カ月間ですでに11名を現地採用しています。そのうち4名はIT未経験者ですが、社内の教育プログラムを通じて育成中。IT人材の教育ノウハウを持つ企業は、未経験者採用も検討に値すると思います。
開発規模も都内とほぼ変わらず、売り上げについても浜松地域におけるシステム開発の案件だけで十分な金額を見込んでいます。2028年末までに従業員数200名を目標に事業を拡大していきます。
4.【地縁・設立ストーリー】株式会社LiNew
株式会社LiNewは、ITエンジニア育成に特化したオンラインカリキュラムを自社開発・運用したり、DX推進サポートを行ったりと多岐にわたるサービスを展開しています。浜松に進出したきっかけは、ライフイベントを控えた代表者自ら実家のある浜松地域へUターンしたことでした。
浜松支社 Branch Manager 若松杏(以下、若松)さん:株式会社LiNewの子会社である株式会社RAMPは、就職を目指す障がいをお持ちの方へITに特化した就労移行支援を行っています。浜松は事業所の出店候補地として良好で、私も地元で何かやりたいと考えていたことから、2022年5月に「IT×福祉」領域の事業を手掛ける株式会社RAMPを浜松に設立、代表に就任しました。
浜松市はコミュニティが充実していて、よい導入事例が一つできると自然と広がっていくようなビジネス環境です。その後、ICT企業である親会社とのシナジーを生かし、もっと地元に根付いた活動をしたいと2024年3月にLiNewの浜松支社を開設しました。
5.【官民連携、地域企業との共創】株式会社トラジェクトリー
次世代エアモビリティ向けの航空管制システム開発などを手掛ける株式会社トラジェクトリーが浜松市を選んだ理由は、官民連携に対する深い理解があることだといいます。
小関賢次(以下、小関)さん:浜松市では、中山間地域でのドローン物流や災害時におけるドローン活用といった、市と複数の事業者が連携することを中心に取り組んできました。そうした活動の延長線上に、2024年から実装が始まった国のデジタルライフライン全国総合整備計画アーリーハーベストプロジェクトにおいて、天竜川水系が日本初の実装フィールドとして選定され、浜松市企業2社と連携した提案が採択されました。
小関さん:実証実験の実施においては市の職員が住民への説明会を開き、熱意やビジョンを語りながら地域の了承を得てくれます。また、コンソーシアムを通じてさまざまなユースケースについての意見交換を行えるだけでなく、実装に向けた座組も作れます。
共創の枠組みのもと、全国に先駆けた取り組みを率先して実施していけることは、浜松市の大きな魅力だと思っています。
エコシステムに飛び込んだその日からイノベーションが始まる
また、本セミナーの最後には、パネルディスカッションで浜松市への期待や展望を議論しました。
首都圏企業から見た浜松市のビジネス環境は「ひと言でいうと、うらやましい」と小関さん。「市の職員とはビジネスやICT技術の言葉を交えて齟齬なく対話でき、すぐに共通認識が持て、共創がスタートします」と強調します。
また、製造業のDXを推進するために必要なアップデートについて、林さんは「製造業のDXには、日本企業の実態に合わせた独自のやり方が必要。産業の基盤がある浜松なら、日本式製造DXを構築できる期待があります」と考えを語りました。
若松さんは「浜松へ視察に来るなら水曜日」とのこと。「浜松駅から徒歩12分ほどのイベントスペースで開かれる『水曜日のヨル喫茶』という交流イベントに出掛けてみてほしいです。ここで私も人脈が一気に広がりました」と続けました。
最後に瀧本より、ICT企業誘致の取り組みにおけるビジョンを共有しました。
「これからのまちづくりにおいては、浜松市と民間企業、地域の皆さんが一つのチームとなり、地域の未来に必要なものを共に作ろうとする積極的な姿勢が重要だと考えます。
そうした取り組みを進めるためには、まずは目線合わせが必要で、その段階においては手段であるITやDXの話は一切出てきません。“どうなりたいか”という目的が決まれば、活用すべき手段についても合意が形成できるからです。
実際に、過去の事例において『自分たちがやろうとしていることは、ITやDXに関係しているんだな』と関係者が腹落ちした瞬間に、組織や地域の中で取り組みが広まっています。
共創や連携のあり方を大切に、ICT企業誘致の取り組みも進めていけたら幸いです」
モノづくり企業の集積地において新規開拓を進めたい企業や、採用マーケットを拡大したい企業の方は、浜松市での拠点開設に注目してみてはいかがでしょうか?
浜松市のICT企業誘致の取り組みについて詳細を知りたい方は、以下の公式ホームページもぜひご覧ください。
文:企業立地推進課