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「一緒に乗ってく?」が合言葉。静岡県内初の共助型交通「ノッカル庄内」が浜松市の庄内地区で運行開始

2023年11月23日(木・祝)、浜松市西区(現・中央区)の庄内地区で、住民が自家用車で地域住民を送迎する「ノッカル庄内」の運行開始式が開催されました。

庄内地区は駅やバス停が存在しないエリアもあり、地域の公共交通が脆弱な地域です。とくに高齢の人の移動や学生の通学に不便が生じていました。

この課題に対して2016年からどのように地域の移動手段を確保するか議論が始まり、この度、庄内地区において共助型交通サービスの「ノッカル庄内」がスタートしました。

地域住民の自家用車を活用した共助型交通の導入は、今回が静岡県内で初めての取り組みです。この記事では、ノッカル庄内が導入された背景や今後のビジョンなどを運行開始式の様子とともに紹介します。



庄内地区で暮らしの移動手段が切望される理由とは?

まず、庄内地区をはじめて知る方のために、地域の特徴をお伝えします。以下の地図をご覧ください。

庄内地区は浜名湖に面した半島部分で9つの町からなり、約9,000人の住民が暮らしています。舘山寺温泉を中心にフラワーパーク、ガーデンパークといった観光地が存在する、風光明媚なエリアとして知られます。

2014~2015年にかけて3路線のバスが撤退し、高齢の人や学生を中心に暮らしの移動手段の確保が課題となっていました。


地域の課題やニーズに合った仕組みをつくる大変さを乗り越えて

2016年頃より、庄内地区においてどのように暮らしの移動手段を確保すればよいかという議論が始まりました。まず取り掛かったのは、本市ですでに導入している仕組みをはじめ、全国のさまざまな事例を研究することです。

すると、地域住民が主体となって計画・運行する乗り合いバスの「地域バス」や、利用者の予約内容に応じて到着時刻や経路が変わる「デマンドバス」など、複数の手法が見つかりました。

9人乗りで平日運行の「にこにこバス」。浜名区の滝沢・鷲沢地域や新都田地域、中央区の聖隷三方原病院を結ぶ

しかし、持続可能という観点から、どれも導入には至りません。庄内地区の課題に合った持続可能な地域交通のあり方について、時間をかけて議論していくことになりました。

意識したのは、次の2点です。

  • 乗る側も乗せる側も負担にならないような方式にすること

  • 地域の住民が運営に関わる方式にすること

そうした検討を重ねるなかで、2021年にたどり着いたのが共助型交通の方式でした。共助型交通とは、住民が車で移動する際に、他の住民を乗せて目的地まで届ける仕組みのこと。「助け合い交通」とも呼ばれ、国内で先行事例も生まれていました。

地域のつながりを大切にする庄内地区に合った方式として、検討が進みます。ただし、事業化に向けて次の3つの課題が見えてきました。

  • 事業の運営主体を誰に担ってもらえばよいか?

  • 庄内地区の課題を解決するために、具体的な事業内容をどうするか?

  • 地域住民の皆さんから事業への理解をしてもらえるかどうか?

浜松市公式ホームページ「公共交通空白地有償運送事業」より


道路運送法で定められた条件を満たし、持続可能な方法を探る議論が続くなか、事業化を進めるべく手を挙げてくれる人たちが現れました。それが、地域で暮らす30~40代の皆さんです。

近所に暮らす親子や高齢の人などが、暮らしの移動手段に困っている姿を目の当たりにしてきたとのこと。共助型交通の必要性を感じ、地域に貢献したいと10名が有志メンバーに志願してくれました。

そして、2021年11月には地域の有志による「共助型交通を考える有志会議(以下、有志会議)」が発足。そこから各所との対話が一気に進んでいきました。


2022年4月に庄内地区社会福祉協議会(※)との調整がかない、同年9月に同協議会が共助型交通の事業主体を担うことが決定しました。2023年5月に有志会議メンバーも同協議会に加入し、具体的な事業内容を協議。5月から7月にかけて9つの全ての町で住民説明会を実施し、地域の理解を得ていきました。それと同時並行して6月、浜松市地域公共交通会議で事業内容が承認され、今回の事業開始に至ります。

まさに、地域の皆さんが有志メンバーとして立ち上がったことが転機となり、共助型交通の仕組み「ノッカル庄内」が始動したのです。

※地区社会福祉協議会とは、地域住民が地域で安心・安全に暮らしていけるように「地域のつながり」を活かしながら様々な活動に取り組む住民組織です。(浜松市社会福祉協議会HP「地区社協の取り組みについて知りたい」より)


予約も利用もシステムで安心、ノッカル庄内の利用方法

そして迎えた、運行開始式の日。ドライバーと利用者から、「ノッカル庄内」の利用方法をレクチャーしてもらいました。利用方法は、以下の通りです。

  • 利用者は前日までに専用アプリか電話で「ノッカル庄内」の利用予約を行います。

  • 利用当日、予約した時間に専用のステッカーを貼った車が到着します。

  • ドライバーと当日、予約した時間に専用のステッカーを貼った車が到着します。

送迎できる範囲は、庄内地区内であれば目的地を問いません。庄内地区外は、近くの交通結節点である、遠鉄バスのすじかい橋バス停と山崎バス停、JRの弁天島駅と舞阪駅の4地点まで。ただし、JRの駅までは送り届けることのみ可能で、帰りは利用者各自で公共交通を使用することが前提となります。

利用対象は、庄内地区に居住する18歳以上の人で、会員登録が必要です(登録費、会費ともに無料)。利用料金は距離に応じて300~1,200円で、事前の予約時に分かるので安心です。

専用アプリでドライバーの運行を管理

ドライバーは普通免許を持つ人で、国土交通大臣が認定する講習を受けた人または二種免許を持つ人となり、どちらも規約に同意した人が登録されます。ドライバーには運行距離に応じた少額の謝礼が支払われます。

また、「ノッカル庄内」の運行管理面については、浜松に本社を置くタクシー会社である光タクシー株式会社の協力を得ました。具体的には、ドライバーの体調確認・アルコールチェックや予約・運行管理などを行います。


ドライバーの体調管理などをタブレットで行う専用のシステムを、光タクシー(株)の担当者がデモンストレーションしている様子


こうした仕組みを整え、「ノッカル庄内」は道路運送法上の「事業者協力型 自家用有償旅客運送制度」により登録事業として許可を得て運行をスタートできました。

運行開始式の当日時点で、利用者は27名、ドライバーは16名が登録と上々な滑り出し。2024年2月末頃までの期間限定の無料運行を実施し、新規利用を促しています。


住民参加型のサービスが目指す先は“地域の活性化 ”

「ノッカル庄内」は地域の交通インフラを維持し、住みたいところに住み続けられるための手段として期待されています。そして、その先に目指しているゴールは、移動手段の枠を超えた「地域活性化」です。乗り合いの方式により、地域の人々のつながりを強化し、交流の増加などを図っていきたいと考えています。

事業の運営を担う庄内地区社会福祉協議会長の安間清弘さんは、本事業にかける思いを次のように語ります。


「地域の若手の皆さんが手を挙げ、事業内容の検討や住民説明会に取り組むと決意してくれたことから、庄内地区社会福祉協議会が事業の受け皿となり一緒にチャレンジすることを決めました。

『ノッカル庄内』は、地域の住民の方にドライバーとなってご協力をいただく支え合いの気持ちで成り立つ事業です。地域で必要とされるサービスに育っていくよう、住民の皆さんから意見をいただきながら精一杯取り組んでいきたいと思います」


有志会議のメンバーやドライバーの皆さんも、事業に携わった理由やこれからの思いを語ってくれました。


「3キロ先の病院にも通えない」困っている人の助けになりたい

有志会議のメンバー「有志会議に参加し、実際に住民の皆さんに話を聴いてみて驚いたのは、近距離の移動に困っている人が多いということ。例えば、高齢になるAさんは『3キロメートル先の病院にも行けない』と悩んでいました。ご高齢になっても免許を返納できず、不安のなかで運転しているご近所さんの姿も見てきました。自分も何か力になれたらという思いはずっと持っていましたね。

『ノッカル庄内』は、”ちょうどいい社会貢献のかたち”だと感じます。自ら主体的に協力できる仕組みである一方、外出の道のりでご近所さんを乗せていくという点で気負わず取り組めるからです。自分の日々の行動によって地域の誰かの役に立てるというのは、うれしいことですね」


住民が当事者意識を持ち取り組むことで地域の事業が前進する

有志会議のメンバー「さまざまな声が住民の皆さんから寄せられましたが、説明会を開いていくと『必要な取り組みであることには間違いない。まずやってみよう』という意見にまとまっていきました。バスやタクシーの事業者の皆さんとも対話を重ね、双方にとって最善なかたちでスタートできたと感じます。

地域に必要なサービスを考えるとき、住民自ら当事者意識をもって取り組むことが大事だと学びました。運用開始後も利用いただく皆さんの声を聞き、よりよいサービスを目指していけたらと思います」


子供たちの可能性を広げるためにも、まず始めること。改良を続けてよりよいサービスに

ドライバーに登録した住民「子供が高校受験を控え、どこの高校なら自力で通えるかと進路選びにも移動の課題が影響していました。移動の自由は、子供たちの可能性を広げるためにも必要と考え、ドライバーに登録しました。

『ノッカル庄内』は新しい取り組みですが、実際やってみて効果が見えてくれば協力してくれる地域の人は多いと感じています。私の友人も、『ドライバー登録に興味があるから、今度感想を聞かせてね』と言ってくれました。この地域で豊かに暮らしつづけたいという思いは、みんな共通ですから」


「ノッカル庄内」は、住みよい地域づくりに寄与する取り組み|中野祐介浜松市長

最後に、中野市長も期待を込めてノッカル庄内の成功を祈念し、メッセージを送りました。

「少子高齢化が進む中、移動の手段をどう確保するか、どの地域でも大きな課題となっています。そのような中、地域の共助により交通を維持する『ノッカル庄内』は、大変重要な取り組みであると考えています。

さらに、ノッカル庄内の取り組みが地域交通の確保に留まらず、地域の活性化に寄与し地域の皆さまのコミュニティをさらに強くするサービスになっていくことを期待しています。『ノッカル庄内』の運行開始により、庄内地区が安全・安心に、そして快適に暮らしつづけられる地域になることを願います


文/デジタル・スマートシティ推進課




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