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AIを使ってSNS投稿からタイムリーに被害状況を把握し、ドローンが自動的に被災地確認を行う方法をテスト稼働しました

2022年9月23日、台風第15号による大雨の影響で、静岡県内では例年の9月1カ月分を超える記録的な大雨が降り、浜松市でも浸水被害などにみまわれました。大雨の発生回数は毎年増えており、広い市域を有する浜松市では、その広さをカバーするような対策が急務となっています。

災害の発生時には、被害状況をなるべく早く把握し、適切な支援と復旧に取り組むことが必要となります。しかしながら、危険を伴う中、広域な市域で被災直後に被害状況を把握することが困難であることが課題でした。

そこで、浜松市 危機管理課では、浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォーム(※)の参加企業3社から協力を得て、最新技術を融合した全国初の方法で市内の浸水状況を確認する検証を行いました。

2023年3月3日(金)に実証実験を行いました。この記事では、本取り組みの背景と、当日の様子をお伝えします。

※浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォーム|官(行政)と民(事業者等)の連携により、浜松市におけるデジタル・スマートシティの取り組みを推進していくプラットフォームです。

AI×SNS、自律飛行可能なドローン、3D地図データの3技術を結集し、災害時における即時状況把握の手法を検証!

今回の実証実験では、浸水が発生しているとされるエリアの特定と、ドローンによる被害状況の確認を行いました。降雨や浸水の程度は、2022年の台風第15号を想定しました。

災害発生時の状況把握を迅速に行うために、3D地図を使用します。この3D地図にSNS投稿から収集した浸水の発生情報や、過去の浸水履歴などのデータを取り込むことで、被害の状況を3D地図上でリアルタイムに確認することができます。

画面内、赤いピン=SNS投稿で被害が報告された場所、青いエリア=浸水エリア、黄色い線=ドローンの自動航行路線(例)

3D地図上で特に現地確認が必要とされるエリアを特定したら、自律飛行可能なドローンにより被害状況の確認を行います。ドローンが撮影した現場の様子は、リアルタイムでパソコンに共有されるほか、システムにデータ転送することで実際の浸水状況が3D地図上にマッピングされます。

以下のような時系列で、ドローンによる現状把握を無事に行うことができました。見てみましょう。

※降雨やSNS投稿の情報は、台風第15号が発生した当時の実際のデータを使用。9月24日9:00以降は、浸水被害と通信障害が発生したと仮定したテスト用のデータを別途作成、使用しています。

2022年9月23日(想定)

15:00 浜松市内に(気象庁の)警報は発令されていませんが、愛知県内の一部で気象災害に関連する情報が報告されました。

16:00 浜松市南部で徐々に雨が観測され始めました。

19:00 浜松市南部や市街地で避難指示や洪水警報が発令。SNS上でも気象災害(浸水、道路陥没、大雨など)の情報が続々と投稿されました。

9月23日19:00時点のSNS投稿の様子(令和4年台風第15号当時の状況をそのまま再現) 
画像提供:株式会社JX通信社

21:00 浜松市南部から北に向かってSNSに投稿される災害情報が増加しました。

23:00 長時間にわたる降水量の増加と比例して、SNS投稿も増えていきました。深夜25:00になっても、SNS投稿が止まなかったことが確認できました。

9月23日23:00時点のSNS投稿の様子(令和4年台風第15号当時の状況をそのまま再現) 
画像提供:株式会社JX通信社

2022年9月24日(想定)

10:00 ある地域で浸水被害と通信障害が複合的に発生していることが3D地図上で確認されました。ここを重点エリアと定め、ドローンによる現地確認を行うことを決定しました。

9月24日10:00時点のSNS投稿の様子(今回の実証実験用に仮の被害状況をシステム上で再現) 画像提供:株式会社JX通信社


11:00
 重点エリアに向けてドローンが離陸、現地の映像がモニターに映し出されました。現地確認を終えてドローンが帰着。ドローンが収集したデータが3D地図上に読み込まれ、実際の浸水状況が把握できました。このデータをもとに、市は具体的な対策を検討・実施しました。

ドローンが撮影した街並み


「異業種連携」により“実用化の壁”を越えたことが大きな成果

ドローンの管制システムを操作する様子

災害発生からドローンを飛行させることを決定し、被害状況の確認までの時間を早くできたことが大きな成果でした。現地確認に向かうためには、あらかじめ被災地の現状を把握したり、ドローンの飛行ルートを作成したりするといった準備が必要ですが、今回の検証ではどうしてそれらの作業を迅速に行えたのでしょうか?

その背景には、最先端技術を掛け合わせ、まったく新しい災害発生時ネットワークシステムを構築できたことにあります。今回、技術協力を得たのは次の3社です。

  • 株式会社JX通信社(報道ベンチャー・情報サービス開発、所在地:東京都千代田区、以下「JX通信社」)

  • 株式会社フジヤマ(建設総合コンサルタント、所在地:静岡県浜松市、以下「フジヤマ」)

ドローンで現地確認すべきエリアを絞るには、どこで・どのような被害が起きているのかを把握しなければなりません。その際、SNSに投稿される実際のまちの様子は、現状を把握するのに非常に有効です。

JX通信社は、日々投稿されているSNS情報のうち、災害・事件・事故に関連する情報のみを自動的に収集しリアルタイムに配信するクラウドサービス「FASTALERT(ファストアラート)を提供しています。

FASTALERTの特長は、AIを活用することで、自動的に情報の収集・分類・配信を行い、かつ、デマや関係のない情報を自動的に排除できることです。パソコンやスマートフォンでいつでもどこでもタイムリーに被害状況を確認できるシステムとなっています。

FASTALERTでは地図とタイムラインの2パターンで状況を確認可能 画像提供:JX通信社


FASTALERTは、災害・事件・事故に関する情報を扱っており、大雨や台風はもちろん、地震や火災といった事象種別も確認でき、事象ごとに情報を絞り込んで表示できます。

FASTALERT が収集するSNSなどの投稿は、AIによる解析のほか、同社の情報専門員が24時間体制でファクトチェックや補正作業を実施しています。位置情報をもとに災害発生場所を特定することで、SNSの投稿情報が地図上にリアルタイムで自動的にプロットされます

このFASTALERTのデータと、浜松市が記録している過去の浸水被害データを、3Dの地図データへ重ねて表示します。すると、過去の浸水履歴と、現在の浸水状況の差が明確になり、被害状況を把握すべき場所が推測できるのです。

このように、3D地図にさまざまなデータを連携する技術を提供しているのがフジヤマです。

ベースとなる地図の上に、層のようにさまざまなデータを重ね合わせることで、「道路」「建物」など必要な情報を載せたバーチャルな地図がつくれる。 出典:TOPIC 1|3D都市モデルでできること[1/2]|デジタル地図とGIS | How To Use | PLATEAU [プラトー]


また、ドローンの飛行ルートを作成するためにも3D地図が必要です。それも道路や建築物、信号、電線など細かな構造物の情報までを反映したものでなければいけません。

フジヤマは、静岡県が制作・提供している「VIRTUAL SHIZUOKA 静岡県点群データ(※1)」と、国土交通省が主導する「PLATEAU(プラトー)(※2)」のデータを融合し、ドローンが安全に飛行できる精度レベルの3D地図作成の実現化に成功しました。この技術がなければ、災害が発生した都度、3D地図を制作するためにドローン空撮などを行わなければいけません。

トラジェクトリーが提供するドローンの管制システムでは、AIがドローンの飛行ルートを自動で作成します。このときもフジヤマの3D地図の情報に基づくことで、正確で安全な飛行ルートが作られます。ドローンが空撮した現地の様子もフジヤマの3D地図に落とし込まれ、実際の浸水エリアがパソコンなどで迅速に把握できるようになっています。

さらには、災害発生時には通信障害が発生することも見込まれることから、臨時で使用できるネットワーク網もトラジェクトリーが独自に開発しています。こうした一連の技術連携により、迅速かつ自動的に被災地の状況を確認できる方法が完成しました。

※1)VIRTUAL SHIZUOKA 静岡県点群データ|静岡県が主導し、地形や樹木、建物などを含めた県内の土地空間を、各種の計測手法によりX,Y,Zの位置情報を持つ膨大な点の集まりでデータ化したもの。他のデータと統合することで、デジタル空間上でさまざま分析や活用ができる。

※2)PLATEAU(プラトー)|国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト。地形のみならず建物や道路なども構造化し、用途や築年数などの都市開発データなども付与することで、バーチャル空間上に3Dで表現される都市データを整備し、利活用を促すプロジェクト。

災害復旧や生活再建支援を素早く行えるように

これまで災害時の被害状況の把握は、市の職員が現地に向かって行うのが主流でした。ただし、この方法では時間がかかってしまいます。

「台風や大雨による災害が増える中、災害発生時の被害状況を素早く正確に把握できるようにしたい。そして、災害復旧と生活再建に一刻も早く取り組めるようにしたい」という想いから、今回の連携に至りました。

今回の実証実験が実用化されると、次の3つの効果が得られると期待されます。

  • 災害発生時の初動対応が早まる

  • 災害復旧や生活再建支援に向けた動きが迅速になる

  • 市職員や援助者の危険が回避できる

まず、現状把握が早まることで、災害発生時の初動対応も早まることが期待されます。また、復旧に向けた動きもより迅速になっていくでしょう。市全体の被害状況をつかみ、生活再建支援に向けた行政の対応がより早く行えるようになるはずです。

そして、正確な被害状況を掴めないまま現地に向かうことには危険が伴いますが、ドローンで現状を確認できるようになれば、職員や被災者の安全確保にもつながります。

このような課題解決に向けて、3月3日の実証実験では一定の成果が得られました。今後は連携の実用化に向け、さまざまなケースを想定してテストを重ねていく予定です。

想いを共にするから、困難な社会的課題にも向きあえる

お伝えしたように、災害発生時にドローンを安全に飛行させるためには、さまざまなデータを掛け合わせたシステムの構築が必要になります。とはいえ、3D地図を作成するだけでも膨大なコストがかかり、ドローンの自律飛行にも高度な技術が必要です。そのため、リアルタイムに被害状況を把握するドローンの管制システムは、実用化が難しいのが現状でした。

そのような中、今回の体制が構築できたのは、「市民の安全・安心を守る仕組みを」という想いのもと、市と民間企業が協力し合い、最先端の技術力を結集した成果だったといえます。

開発を進めてきた3社のご担当者に、協業の経緯や実証実験を終えた感想を聞きました。

――会社の枠組みを超えて3社が連携し、協力を惜しまず市のプロジェクトに取り組みました。どのような背景から異業種の連携が叶ったのですか?

JX通信社 広兼さん

JX通信社 広兼さん:今回の連携が実現したのは浜松市が先進的な技術やサービスを取り入れながら社会課題の解決に積極的に取り組む自治体であることが大きく影響していると思います。

FASTALERTは全国200以上の自治体に利用いただいており、私自身も全国のさまざまな自治体様とお話する機会も多くありますが、今回のように異業種かつ複数社のサービスを連携して、発災初動期の状況把握手法を検証するといった事例は非常に新しい取り組みだと思います。

私たちも、浜松市の「地域一丸となって地域防災へ取り組みたい」という想いに共感して本プロジェクトを進めてきました。実証実験にとどまらず、実装までを見据えた官民連携による体制の構築をここまでのスピードで推進できるのは、浜松市の強みだと感じます。

フジヤマ 山浦さん

フジヤマ 山浦さん:私たちの技術を活用すれば、今回のような方法がつくれるのではないか、と浜松市の担当者からお声掛けをいただき連携が始まりました。市の実証実験に参加するなどして、もともと浜松市の防災に取り組んできた3社です。お互いの取り組みを知っていたため、自然と協力関係が生まれていきました。

それでも、お互いの技術をオープンにして開発に取り組めたのは、官民連携プラットフォームという共創の場だったからこそ。データの取り扱いが難しい場面もありましたが、浜松市の担当者が、河川課や消防局といった他部門と連携してくださったおかげでスムーズに進められました。

――今回の成果をどのようにお考えですか?

トラジェクトリー 髙地さん

トラジェクトリー 髙地さん:弊社では2021年から浜松市とともに、中山間地域においてドローンで医薬品を配送する実証実験に取り組んできました。天竜区春野町でのテスト飛行に続き、今回の実証実験では、市街地でもドローンのテスト飛行を行うことができました。さらなる前進だったと感じます。

なんといっても今回は、業種の異なる3社の技術をシームレス(※)につなげ、実用可能な方法を構築できたことが大きな成果でした。今後も市内のさまざまな場所でリアルな事態を想定した実証実験を行い、万が一の際に確実に使える方法へとブラッシュアップしていきたいと思います。

※シームレス|機能間やサービス間にバリアがなく、一貫した機能・サービスとして利用できる状態のこと。「継ぎ目のない」「縫い目のない」の意味。






浜松市とともにデジタル・スマートシティの取組を推進する事業者を募集中

浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォームは、官民連携でデジタル・スマートシティ浜松の取組を推進していくプラットフォームです。本プラットフォームでは、デジタルを活用し、市民生活の質の向上や地域課題の解決に一緒に取り組んでくださる事業者の皆さんを募集しています。

ぜひ以下のページよりご参加をご検討ください。

浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォーム