データ連携基盤(FIWARE(ファイウェア))活用の好循環の形成に向けて、ウェビナーを開催しました!
本記事は「データ利活用」や「データ連携基盤(※)」の取り組みに関する記事です。関連する用語には適宜、注釈を入れています。
浜松市は2023年2月、FIWARE(※)を活用したデータ連携基盤の運用を開始しました。データ連携基盤の利用を活性化し、官民連携のまちづくりを推進するためには、利用者コミュニティの形成とデータ連携基盤を活用したサービスが事業として軌道に乗るようにビジネス環境を強化することが不可欠です。
そこで、2024年1月31日(水)に「データ連携基盤活用のエコシステム形成に向けて〜コミュニティとビジネス環境の強化〜」をテーマに、ウェビナーを開催しました。
データ連携基盤に関係する専門家が登壇し、各団体の取り組みを紹介。この記事では、当日の内容をダイジェストでお伝えします。
ウェビナーの全編および登壇資料は、以下よりご覧いただけます。https://www.month.hdsc.city/webinar/2023-04
取り組みの説明1:FIWARE Foundation への加入とエコシステム形成に向けて
浜松市 デジタル・スマートシティ推進課長 瀧本陽一
データ連携基盤は、デジタル時代における官民共創のまちづくりを支えるインフラです。持続可能なかたちで運用していくためには、「マインドセット(※)の転換」「ビジネス環境の整備」「相互運用性の確保」が求められます。
企業や行政が従来の自前主義から脱却し、共に技術開発・事業創出に取り組む意識への転換が必要です。また、創出したビジネスを世界規模で展開できる環境や、統一されたフォーマットや規格などを整備しなければなりません。
浜松市は、データ連携基盤を活用した新たなサービスの官民共創を支援する「Hamamatsu ORI-Project(オリプロジェクト)」を2020年度に始動。2023年11月には日本の自治体としては初めて、FIWARE Foundation(FIWAREの普及を民間主導で推進するために設立された非営利団体。本部はドイツに所在)の会員となりました。
世界におけるデジタル連携基盤の活用事例を研究し、今後も活用推進に取り組んでいきます。
取り組みの説明2:iHub Baseの機能を活用したコミュニティの活性化とグローバルな展開
iHub Base ゼネラルコミュニティマネージャー 笹野修平氏
FIWARE Foundationから認定を受けたアジア初のFIWARE利用者コミュニティ「iHub Base(アイハブベース)」の笹野氏は、FIWARE Foundationの取り組みやスペインにおけるFIWARE利用者コミュニティの事例を紹介しました。
FIWARE Foundation では、データ連携基盤を活用して創出したサービスを、誰でも申請すれば掲載できる「FIWARE Marketplace」や、システムの詳細を含めた活用事例を掲載・集約した「FIWARE Impact Stories」を展開。
また、中小企業やスタートアップ向けに「FIWARE Accelerator Program」を用意し、スポンサー企業の技術支援・ノウハウを提供し、FIWAREと連携できるサービス構築のサポートを行っています。
コミュニティの事例として、スペイン・ウエルバ港湾局の取り組みを紹介。同港湾局は魚市場の2階にイノベーションハブを構え、スタートアップが魚市場でアイデアを即座に検証できる環境を提供。1年ほどで事業が立ち上がるスキームを構築しています。
取り組みの説明3: MoC プログラムを通じたにつくる協調領域
一般社団法人コード・フォー・ジャパン MoCプロジェクトマネージャー 酒井一樹氏
一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下、CFJ)では、市民主体のボトムアップなまちづくり「Make our City(MoC)」の活動を推進し、オープンソースのFIWAREをベースとしたデータ連携基盤「MoC都市基盤」を提供しています。また、市民との議論を促すツールの提供や、専門家による相談などのフォローアップを行い、活用事例創出の支援をしています。
非営利法人の強みは、中立な立場で団体・企業をつなぎ、必要なルールの策定や利害の調整ができること。プロセスを含めたオープン開発が重要だと捉え、データ提供者とサービス提供者の参加を加速する「MoC-Readyプログラム」も提供しています。
CFJでは、団体・企業が牽制せず協力しあえるよう、参加者同士が安心してデータ提供や議論、共創のできるコミュニティの醸成と環境づくりを推進しています。
取り組みの説明4:データ連携基盤を活用したサービスの実装に向けて
スマートシティ社会実装コンソーシアム 事務局/コミュニティマネージャー 土屋俊博氏
スマートシティ社会実装コンソーシアムでは、分科会の運営、マーケットプレイスの整備、データ利活用に関する研究会の実施、広報・イベント活動の4つを通じ、スマートシティの実装を全国規模で進めています。
データ利活用に関する研究会では、データ連携基盤に触れる機会がない会員向けに、お試しのサービス開発環境を提供し、データ連携基盤へのデータ登録やデータ引き出し、ユーザーインターフェイスを試せる実践的な場となっています。
また、マーケットプレイスでは、地方自治体のニーズにあわせて12の分野、50のサービスを掲載。産官学の垣根を超えて団体・企業が連携し、付加価値の高い事業モデルの構築に取り組める環境を提供しています。
取り組みの説明5:公共分野の共創エコシステム形成に向けたAWSの取組・支援
アマゾン ウェブサービス ジャパン合同会社 シニア事業開発マネージャー 岩瀬霞氏
クラウドサービスのプラットフォームとして知られるアマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)。AWSは、公共分野のイノベーションを加速するため、共創エコシステムの形成を支援しています。
具体的には、スタートアップに対するAWSの無料利用枠の提供や学習と認定試験の機会である「AWSソリューションアーキテクト」による技術面の支援、スタートアップと自治体のコミュニティの構築、サービスローンチのGo-To-Market支援などがあります。海外展開においても、世界各国のAWSチームと連携し、現地のスマートシティ関係者との交流や連携を促進しています。
国内においても浜松市を含む全国13カ所で「デジタル社会実現ツアー2023」を開催。浜松市とも連携協定を締結し、デジタル・スマートシティのエコシステム形成にも協力しています。
取り組みの説明6: データ連携基盤のSaaS提供
インフォ・ラウンジ株式会社 代表取締役 肥田野正輝氏
インフォ・ラウンジでは、地方自治体や官公庁のデータを掘り起こすプロセスから、データの整備、適した形式に変換するプロセスまでを「Datashelf」というサービス名で提供。「オープンデータとして公開するデータがなかなか見つからない」といった課題に対しても、地方自治体が所有する写真や画像のデータを地図上に表示したり、キーワード検索ができるようにしたりするサービス「OpenPhoto」を展開しています。
データ連携基盤には、分散するデータを仲介する機能(ブローカー)が組み込まれています。このブローカーが膨大なデータを効率的に処理できるよう、データモデルの共有化や認証体系の設計など、仕組みの統一やルールづくりが急がれます。
さまざまなデータが接続されるデータ連携基盤の利用を促進するには、運用面や仕様の整備が必要であることが強調されました。
取り組みの説明7:データ連携基盤を活用した取組事例
株式会社インテック クロスインダストリー 企画部長 安吉貴幸氏
ITを活用し、地元の富山県を中心とする地域課題の解決に向き合ってきたインテック。同社では、「エリアデータ利活用サービス」を展開し、地域の暮らしに関連するデータの収集や利活用を促進するデータ連携基盤を提供しています。地域から寄せられる課題起点のサービス開発に取り組んでいます。
富山県魚津市では、ごみ収集車にGPSセンサーを搭載。収集したデータをもとにごみ収集状況の可視化やごみ収集ルートの最適化などに生かしています。また、内水氾濫の起きやすい河川にセンサーをつけて水位をリアルタイムで可視化。災害発生時の水門開閉などに役立てているほか、避難所の地図情報や道路状況などのデータを組み合わせ、地域住民に公開し災害対策にも役立てています。
「データ連携基盤をどう生かすか」といったツール起点ではなく、「この課題解決にデータを生かせないか」といった視点が、活用事例の創出につながっています。
取り組みの説明8:エコシステム形成に向けたアカデミア(※)の役割
静岡大学 土木情報学研究所 所長 木谷友哉氏
土木分野の専門学部が未設置であった静岡大学で2020年に設立された静岡大学土木情報学研究所。同大学浜松キャンパスの強みである情報学部や工学部の知見を融合しながら、土木分野における情報の取得・蓄積、データ活用の理論探求、人材育成などに取り組んでいます。
近年、3D都市モデルの「PLATEAU(プラトー)」や、三次元点群データにより静岡県内の土地を立体的に表した「VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャルシズオカ)」などの登場により、土木分野のデータ活用に対する学生の関心が高まっているとのこと。
木谷氏は、基礎研究と教育を通じて将来の人材や起業家を育て、新しい技術やサービスの開発に貢献することが大学の重要な役割と捉え、「連携に関する相談は、気軽にいただきたい」と述べました。
専門家9名によるパネルディスカッション
続いて、浜松市フェローの西村真里子氏をファシリテーターに迎え、データ連携基盤の利活用促進および、地域とビジネスの発展にとって必要なエコシステムの在り方について議論しました。
西村:データ連携基盤を活用したいと思ったとき、あるいは、特定の課題をデジタルで解決したいと思ったときの入り口として、どのようなアプローチが必要ですか?
土屋:課題と捉えている事柄や問題認識の温度感は、利害関係者によって異なります。ですから、まずは共通認識を持つ熱量の高いコミュニティに関わってみるということと、地域として理想的な状態を描くことが必要だと思います。
西村:「それって本当の課題?」と話しあい、向き合うべき真の課題を決めるということですね。
酒井:入り口という意味では、若手に参加してもらえるコミュニティやプラットフォームであることも必要です。未来を創っていくのは次世代の方々なので。
岩瀬:地域のイノベーションを加速したいと考えたときに、スタートアップはもちろん、金融機関やアクセラレーター(企業の成長を促す支援者)といった支援者にも、加わってもらえるようなインセンティブ設計(動機付けの仕組み)が欠かせません。
肥田野:学生やインフラエンジニア(ネットワークやサーバといったITインフラの構築・運用などを行う技術者)の参画も増えてほしいと思いますね。
西村:木谷先生は、いかがですか?
木谷:似たような課題に対し、プレーヤーがそれぞれのやり方でサービスを開発しているとしたら、もったいないと思います。活用事例や実証実験の結果を理論化、体系化することでもお役に立ちたいです。
安吉:切磋琢磨すべき領域もありますが、日本国内でサービス提供者同士が戦って消耗してはいけません。優れたサービスをいち早く生み、日本全国や世界に流通する仕組みや支援がほしいと思います。
笹野:たとえば、FIWARE Marketplaceにサービスを登録いただくことで、興味を持った人からの問合せが期待できます。登録は無償なので、ぜひご活用いただきたいと思います。
酒井:「(活用事例を持つ団体・企業の担当者が)一斉にマーケットプレイスに登録してみよう!」というイベントを企画してもおもしろいと思います。
西村:土屋さんが、全国の「スシ(=スマートシティ)」の取り組みについて語るイベントを定期開催しています。日本中の参加者が寿司を食べながら、マーケットプレイスにサービスをもくもくと登録する……といった企画は、次回の「ネタ」にいかがですか?
一同:いいアイデアですね(笑)!
西村:では最後に瀧本さんから、エコシステムの活性化について浜松市の展望を教えてください。
瀧本:私からは、2点あります。1点目は、「データ連携基盤を活用してもらい、活用事例をつくる」というこれまでの提供者目線を、市民や企業などのユーザー目線に転換する必要があるということ。
2点目は、日本でも一定の活用事例が蓄積されはじめているなか、今後は広域連携が必要になることです。たとえば、コンソーシアムで全国の課題を取りまとめていただき、共通した課題を抽出して全国的に投げかけてもらうなど。グローバルに活躍する企業にディストリビューター(販売代理店)となってもらうなどして、海外で広くサービスを展開するチャネル(媒体や流入経路)も開拓しなければいけません。
これからは「Make our City」でまちづくりを行っていく時代です。官民共創や市民協働に必要なエコシステムづくりを皆さんと一緒に進めていきたいと思います。
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