オープンデータの利活用ワークショップ ~想いを1つに官民連携のまちづくりを進めるために~
7月27日(木)、データ分析ツールの「Tableau(タブロー)」を使いオープンデータ(※)の分析にチャレンジする「データの力で地域活性化 ~Data Literacy for ALL in Hamamatsu(データ・リテラシー・フォー・オール)~」が開催されました。
関係者が必要なデータにアクセスし、活用することは、官民連携によるデジタル・スマートシティの実現にとって大事なポイントとなります。また、まちづくりに関するデータに触れてもらう機会も、地域の課題解決や活性化への関心をより高め、新たな行動をするきっかけとなるかもしれません。
そこで、地域の皆さんや浜松市職員を対象に、データスキルの修得支援を行う機会として、本ワークショップが開催されました。官民連携プラットフォームを通じて呼びかけ、企業・団体にお勤めの方や大学生を含む総勢31名に参加いただきました。
データを活用しながら民間の視点で「まち」を捉えてみると、どのような特徴が見えてくるでしょうか?
本記事では、当日の様子をレポートします。
必要なデータを市民の誰もが利活用できるように
デジタルの力を最大限に活用した持続可能な都市づくりを目指す浜松市では、さまざまな取り組みを通じて官民連携でデジタル・スマートシティ政策を推進しています。
2020年4月に「浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォーム」を立ち上げ、エコシステム(※)の基礎となる体制を構築。企業・団体や市民がデータを活用しながら地域の課題解決や活性化に資するサービスを生み出せるよう、「データ連携基盤」をはじめとするインフラ環境の整備にも取り組んできました。
2022年7月1日には、市民の皆さんが安全・安心で幸せに暮らし続けることができる持続可能な都市を築くことを目的に、「浜松市デジタルを活用したまちづくり推進条例」が施行されました。
そうした一連の取り組みのなかで、市民の皆さんや市職員がオープンデータに触れ、活用できる機会を増やすことも、デジタル・スマートシティの実現のために重要だと考えます。
本ワークショップは、CRM(顧客関係管理)の総合プラットフォームを展開する株式会社セールスフォース・ジャパン(以下、セールスフォース社)と、市民自らテクノロジーを活用して地域課題の解決に取り組む「シビックテック」の活動・コミュニティを推進する一般社団法人コード・フォー・ジャパンの共催です。
両社は、データスキル人材を育成する機会の創出に取り組むため、2022年11月に協力体制をスタート。以来、地域社会向けのデータスキルに関するトレーニング機会である「Data Literacy for ALL」を全国各地で展開してきました。
誰にどんなデータを提供すればよいのか? 本ワークショップの流れ
本ワークショップでは、Tableauを用いてオープンデータを分析します。具体的には次の流れで進めました。
オープニング:データ分析の必要性やコツ、実際に扱うデータなどに関してレクチャーを受ける。
見せ方の検討:「誰に・どんな情報を伝えたいか」を各自考え、データ分析の指針とする。
個人ワーク:どのようなデータを収集・分析するかを検討しながら、Tableau上に必要なデータを読み込ませる。
グループワーク:3で抽出した方向性をグループ内で発表し、共通で取り組むテーマを決める。Tableauに必要なデータを取り込み、2で検討した見せ方に沿ってデータを整備する。
まとめと発表:「Viz(※)」の形式にまとめ、発表する。
テキストや数値、プログラミングに適したデータ形式であるJSON(ジェイソン)など、Tableau上には、さまざまな形式のデータが取り込め、データを多角的に分析できます。その一方で、多機能かつ活用範囲も広いため、セールスフォース社の皆さんがサポートに入りました。
1班あたり4~6人のグループに分かれ、参加者同士で協力しながらVizの作成を進めていきました。
同じデータを使ってもアウトプットは三者三様に! 新たな気付きが得られたグループ発表
全6グループがTableauによるデータ分析を行い、興味深い考察を得ました。以下に、それぞれの発表内容をお伝えします。
Aグループ
「地点別の歩行量が棒グラフの形式で把握できるVizを作成しました。歩行量調査のデータには、『歩行者』と『車いす』の2種類の属性があります。Aグループでは、その属性別に歩行量の増減が棒グラフで閲覧できるVizを作成しました。
その結果、車いすの属性にあたる人が特に多く通過している商店が見つかりました。この地点における傾向を探ってみると、まちづくりに関するヒントが得られるかもしれません。
なお、『車いす』『車イス』『車椅子』のように集計時の表記が統一されないことで、データ整備に手間がかかりました。このような改善の気付きを得られるのも、実際にツールを使ってみたからこそ。まちづくりにおいてデータの利活用を進める意義がまた1つ見つかりました」
Bグループ
「交通事故データを使用し、時間帯別と天候別でデータを整理しました。交通事故データは負傷者と死亡者に分けて数字が集計されています。今回は、負傷者のデータを使用し、特に交通事故の確率が高まる時間帯や天候条件を割り出すことをゴールとしました。
グループ内で話すうち、Vizに活用できるデータがほかにも見付かりました。例えば、道路形状のデータを掛け合わせれば、より精緻な道路上の危険度を見える化できるかもしれません。そのようにVizを磨き上げることで、家族の交通安全を守るサービスに活用できるであろうという結論が得られました」
Cグループ
「Tableau上に緯度・経度のデータを読み込ませ、歩行量調査のデータと掛け合わせることで、歩行量が地図上で視覚的に把握できるようにしました。特定の地点における歩行量の増減を、時間経過とともに把握できるVizが完成しました。このVizにより、特に朝と夕方に歩行者が集中しやすい地点があるなど、歩行量の傾向が見える化されました」
Dグループ
「グループのメンバーは初めてTableauに触れた人が多く、機能を理解しツールの操作に慣れることを優先しました。そうして徐々にTableauの活用アイデアが浮かんでいき、Tableau上のデータをプレゼンテーション形式で書き出せることが分かりました。例えば、歩行量の推移を紙芝居のように見ていくなど、データの見せ方に対するアイデアが生まれました」
Eグループ
「交通事故データを基に、とくに児童が事故に遭いやすいスポットを地図上に表したいと考えました。しかしながら、図形やグラフのような形でデータを見える化するには、必要な数値だけを抽出したシートを用意するなど、データの整備が必須となります。
考案したVizを実現するために、交通事故データを時間帯別に整備したり、小学校の場所データを抽出したりする必要性が感じられました。まちづくりにデータを利活用するためには、さまざまなデータの準備が必要なことが分かり、そのことが最大の学びになりました」
Fグループ
「浜松駅周辺における歩行量の増減を地図上に表現しました。特定の地点には円形がプロットされています。その円の大きさによって歩行者数の規模が視覚的に分かるようになっています。地点を1カ所に絞り、歩行者数を折れ線グラフにすることも可能です。また、1時間ごとに歩行量の変化も見て取れます。
そこから一歩踏み込み、Viz上に追加したいと感じたのが『方向』というデータです。浜松駅から遠ざかっているのか、それとも浜松駅に近づいているのか、浜松市の歩行量調査では、そうした『方向』のデータも集計しています。出店計画などに有益なデータとなり得ることから、『方向』データもVizに反映し解析したい――そうした、次につながるアイデアも生まれました」
オープンデータの利活用で進む未来のまちづくり
ワークショップの主催者側と参加者に、それぞれお話を聞きました。
株式会社セールスフォース・ジャパン 徳政 由美子さん
「2022年11月に兵庫県神戸市で初めての『Data Literacy for ALL』を開催してから、浜松市は7カ所目の開催となりました。官民連携プラットフォームからの呼びかけで、こんなに多くの参加者の方に集まっていただきました。浜松市はコミュニティが育っていて、官と民の共創が進みやすい印象を受けます。
そこでデータを活用いただく意義が必要になりますが、客観的な指標を活用することで関係者間で目標に対する合意が取りやすくなり、具体的なアクションにもつながりやすくなると感じています。オープンデータを活用し関係者の皆さんが目線を合わせ、浜松市のまちづくりが今後さらに進んでいくことを期待したいと思います」
公益財団法人浜松・浜名湖ツーリズムビューロー 伊藤 典明さん、浜松まちなかにぎわい協議会 山口 七海さん
伊藤さん(写真右):「私たちのグループでは、まちなかの歩行量データを地図に落とし込み、2014年以降の歩行量の増減を視覚化しました。コロナ禍における歩行量の推移も地図上に見て取れ、参考になりました。今回はオープンデータを活用しましたが、自社が持っているデータのなかにも使える指標がたくさんありそうだと想像がふくらみます。まちづくりにデータを活用する意義が分かり、とても有意義なワークショップでした」
山口さん(写真左):「毎年行われている歩行量調査で集めたデータを有効活用する可能性を探れたことが、今日もっとも有意義に感じられたことでした。データ分析ツールを用いて複数のデータを掛け合わせることで、重要な指標をViz上に見える化できるのですね。まちのにぎわい創出につながるヒントが得られますし、自分たちの暮らすまちのことをもっと知りたいという気持ちも高まりました」
株式会社クラッソーネ 小木 悠斗さん
「日頃はITエンジニアとして、名古屋のスタートアップでリモート勤務をしています。家族で浜松に暮らしていることから地域貢献に関心があり、自身のIT技術をまちづくりに生かしたいと考えるようになりました。
データ分析のツールは多々ありますが、誰でも・簡単に・どんな様式のデータも可視化できることは、Tableauのユニークな点だと思います。表計算ソフトやPDFなどの生データをそのまま取り込め、グラフやマップなどにビジュアル化できるので、ITエンジニアの身としてもデータ分析の意欲が湧くツールだと感じます」
本ワークショップのようなイベントを通じて、データ分析の重要性や機会が民間にも浸透し、データドリブン(データに基づいて意思決定すること)なまちづくりも加速していくとうれしいです。
文:浜松市デジタル・スマートシティ推進課
浜松市とともにデジタル・スマートシティの取組を推進する事業者を募集中
浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォームは、官民連携でデジタル・スマートシティ浜松の取組を推進していくプラットフォームです。本プラットフォームでは、デジタルを活用し、市民生活の質の向上や地域課題の解決に一緒に取り組んでくださる事業者の皆さんを募集しています(参加無料)。
ぜひ以下のページよりご参加をご検討ください。