保育業務支援システムを浜松市立の全園に導入、保育業務の効率化と子育て支援の充実を
少子高齢化が喫緊の課題である今、浜松市は子育て支援の充実を重要視しています。さまざまな取り組みを展開する中で、デジタルの力を活用することも子育て支援の充実につながると捉え、積極的に取り組んでいます。
今回の記事では、2023年11月、浜松市に20園ある全ての市立保育園に導入された、保育業務支援システムの導入事例を紹介。
保育士をはじめとする職員の事務負担軽減はもちろんのこと、園児や保護者へ向き合う時間を増やすと期待される、一連の取り組みと職員の思いをお伝えします。
なぜ、間接業務のデジタル化が必要なのか?保育業務の現状について
浜松市中央区西山町にある神田原保育園では、「たくましい子」「生き生きと遊ぶ子」「心豊かな子」を園の目標とし、心豊かで元気な子の育成を目指しています。日・祝日と年末年始以外の7:30から18:30まで(※)の間、園児を受け入れています。
※18:30から19:00までは延長保育を実施
子供たちが安全・安心に日々を送れる環境を提供するため、園職員はその裏側でたくさんの業務(間接業務)を担っています。どのような業務があるでしょうか?
神田原保育園の田中 陽子副主幹(以下、田中)と、1歳児のクラスを担当する保育士・島津 真奈美主任(以下、島津)に聞きます。
――まず、1日の仕事内容を教えてください。
田中:私の仕事は主に、園の運営に関わることです。シフトの作成をはじめとする職員の労務管理の他、保育士向けの研修の企画・実施や、職員がクラスごとに記録している日誌や指導計画の点検も担当しています。
また、一時保育の受け入れのための面接や調整、アレルギー食の個別対応、職員への助言・指導、職員同士の連携を推進するような活動も担当しています。
島津:私は、1歳児のクラスを担当しています。朝はまず、受け入れ準備や掃除をし、園児たちが登園してきたら、その日の体調や登園前の様子を保護者に聞きながら受け入れをします。その後はプログラムに沿って、年齢や発達にあわせた活動や遊びを行います。
お昼には給食の対応をし、その後の午睡(昼寝のこと)でも睡眠時の呼吸チェックなどの対応があります。また、1歳児のクラスは午前と午後にそれぞれ、おやつの時間もあり、降園の時間まで慌ただしく業務が続きます。
――保育園での業務内容は多岐にわたりますね。臨機応変な対応も多いのではないでしょうか。
田中:そうですね。乳幼児は体調が変化しやすいので、体調不良の兆候が見られたらすぐに対応しています。また、職員の雇用形態や勤務時間帯もさまざまある中で、職員同士が協力しやすい環境をつくるために、現場での細やかなコミュニケーションも欠かせません。
島津:保育の仕事は園児の安全と健康に直結するので、園児から目が離せません。園児は自分の気持ちやニーズを言語化するのが難しい年齢ということもあって、泣いたり怒ったりすることで大事なメッセージを伝えてくれる場合も多くあります。その理由を聞いて、適切なケアをすることも大切です。
――そんな中、保育日誌などの書類も作成しているとのこと。事務作業はいつ行っているのですか?
島津:健康管理や記録・連絡業務といった事務作業がありますが、やはり園児と関わっている間は対応が難しくなります。手元にメモを残しておき、遅番の職員に業務を引き継いでから退勤するまでの間などの合間に清書しています。
田中:書類の種類は、園内で完結するものから、保護者に配布するもの、本課に提出するものまで、さまざまです。システムの導入によって、そうした事務作業を効率化できる期待がありました。
園児や保護者と向き合う時間が増えると期待
――2023年11月にシステムが導入されてから、どのような業務がデジタル化されたのでしょうか?
島津:これまでに、4つの業務がデジタル化されました。登降園管理、園から保護者へのお知らせ、連絡帳の記録、園児の健康チェックです。
保護者は個人のスマートフォンに、アプリをインストールしています。登園と降園は、アプリ上でQRコード®を表示し、園の読み取り画面にかざしてもらうことで受け付けます。欠席連絡もアプリから送信してもらい、園側のシステムで受け付け・管理しています。
島津:システムの導入にあたり、1学年に1台、市からタブレットが配布されました。園児の日々の健康チェックも、タブレット上のチェック形式で実施できるようになりました。
――システムの導入前と比べて、今の状況はどうですか?
田中:システムが導入される前は、事務室に来なければ事務作業ができない状況でした。「事務所のパソコンが混んでしまい、事務作業ができない」「今からクラスだよりを作成したいけれど、クラスを離れられない」という場合もありましたが、今は場所に制限されず書類作成をしやすくなったと感じます。
また、手書きで仕上げていた書類の一部は、タブレット上の入力で作成できるようになりました。事務作業が効率化されることで、園児や保護者と向き合う時間が増えることに期待しています。
保護者からの喜びの声も多数、定例会で新たな機能の活用を検討していく
――どんなときに、システムの導入効果を最も感じますか?
田中:登園・降園や欠席の状況が、タブレット上で一目瞭然になったときに効果を感じました。システム導入前は、園児一人一人の名前を書いたマグネット札をホワイトボードに貼っておき、札を反転させることで登園と降園の管理をしていました。
受け入れでは、園児や保護者とのやり取りを優先したいのですが、このマグネット札の対応がけっこう大変で……。今では、その日の欠席者と登園人数をタイムリーに確認できるようになったので、本当に便利になりましたね。
島津:「アプリから連絡できて、楽になった」という保護者の声をもらったときに効果を感じます。今は、欠席や早退の連絡も保護者の都合のよいタイミングで送信してもらえますし、内容の伝達ミスもありません。
神田原保育園の園児は習い事をしている子が多いので、14:00から15:00ごろにお迎えに来る家庭が日々あります。1年分の早退計画を予め送信しておく保護者もいて、「連絡が1度に済んで便利」と言ってくれます。
――システム導入によって、保護者にとっても喜ばしい効果が得られているのですね。一方で、運用面で大変なこともありますか?
田中:職員によってデジタルツールに得意・不得意があるので、全園で使いこなせるようになるまでは時間が必要なことです。これまで手元のメモでやりくりしていた事柄を、全てタブレットに置き換えるのは現実的でない部分もありますから、職員の手作業も大切にできたらと思います。
使ってみて分かることも多いと思いました。例えば細かい点ですが、PDF3枚のお便りをシステムから送付できるか試してみたら、1枚しか送信されないことが分かりました。まずは、職員同士で機能をテストしてから、「PDFを送るときは、データを分割せずに1枚に連結して送ろう」というように使い方を工夫しています。
――運用においては工夫が必要な部分もありますね。
田中:システムの運用について浜松市では、システムの全体統括を担う幼児教育・保育課と当保育園を含めた全20園が参加する定例会を実施しています。幼児教育・保育課の職員が園職員の意見を吸い上げて、機能の拡充や課題の解消に向けて動いてくれますので、今は、業務がデジタル化されていく過渡期だと受け止めています。
島津:紙ベースの作業や記録業務が効率化されると、業務は確実に楽になりますし、教材研究や職員連携のために割ける時間が増える期待もあります。
例えば、活動や遊びを計画する際に、職員が教材研究を行っています。絵の具の濃さや素材の大きさなど、クラスの子供たちが無理なく有意義に取り組めるかをチェックするんですね。
システムを使いこなすほどに、そうした時間も増えていくと思いますから、現場としても今は「まず使ってみて、感想を持つことが大事な時期」だと思っています。
間接業務の効率化は、よりよい園の運営と子育て支援のベースとなる
――今後、システムに関して期待することや、システムを活用して実施したいことはありますか?
島津:システム上で利用できる機能は他にも多数あるので、今後、機能が拡充してさらに便利になったらよいですね。例えば、書類だと紙が増えて、保管場所に苦慮する場合もあるので、園だよりや献立表のデジタル配布機能も個人的には導入を期待しています。
2024年春には、保育の計画書である週案・月案や、保育日誌のデジタル化が予定されています。そうすると、他のクラスの活動記録や保育計画も、タブレット上で検索・閲覧できるようになります。
デジタル化により情報共有が進めば、保育計画のより一層の充実や職員同士の連携強化が期待できます。
田中:デジタル化により情報発信の機会が増え、保護者とのコミュニケーションもより充実するのではないかと思います。保育に対する園の考え方や、園児の様子などを保護者に届けやすくなるためです。
また、保護者アンケートの実施や集計もシステムで行えるようになりました。園からの情報発信だけでなく、園の運営に関する意見や、イベントの実施に対する希望など、保護者のニーズも把握することができます。
このように接点が増えることで、保護者も自身の考えや希望を園に伝えやすくなると思います。デジタルの力で間接業務を効率化していった先に、園児も保護者も関わりやすい園となり、そのことが子育て支援につながっていったらうれしいです。
担当課の役割はデジタル化でよりよい環境を作ること。全園にとってベストなシステムを
続いて、保育業務支援システムの導入に携わった浜松市 幼児教育・保育課 施設グループの原田佳秀主任に、導入経緯や思いを聞きました。
―― 今回、どのような考えから、システムの導入に至りましたか?
原田:保育の仕事は、時として園児の命に関わる重要な業務だと思います。子育て支援の観点からも、保育士が園児や保護者とのやり取りに向き合う時間を増やしていくことが重要です。
園児の健康や午睡のチェックをはじめ、アレルギー食や体調面の個別対応、教材研究や職員連携などに割ける時間が増えるよう、間接業務の効率化が進むことを期待しています。
一方で、業務の状況は園それぞれですので、「多機能すぎて使いこなせない」、「本業を阻害してしまう」といったことのないよう、システムの選定時から園と対話を重ね、慎重に導入を進めてきました。
――最後に、今後の展望を教えてください。
原田:大前提にあるのは、子供たちにとって保育園が安全・安心に過ごせる環境であることです。それを支えるデジタルツールでありたいという思いが根底にあります。
導入後も運営を円滑にするため、全園を対象とした定例会に実施。今後もタブレットの充足化や機能の追加など、職員が保育園業務に注力できる環境整備に尽力していきます。
文/デジタル・スマートシティ推進課
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