Well-Beingから広がる可能性! モビリティ分野の「幸福感」向上を官民連携で考えるワークショップを開催しました
私たちの豊かな暮らしを叶えるためのまちづくり。行政や、社会的課題を解決するための事業を行っている企業や団体では、地域の課題を解決する視点でサービス設計に取り組むこともありますが、そうすると近視眼的な案になりやすいのが難点といえます。
人々の暮らしをガラリと変えるような取り組みは、もっと希望に満ちた議論のなかから生まれるものかもしれません。そこで注目されるのが「Well-Being(※1)」を起点としたまちづくりです。
官民連携のまちづくりに取り組む浜松市では、とくに影響度の高い「ウエルネス分野」「カーボンニュートラル/エネルギー分野」「スタートアップ分野」「交通/モビリティ分野」の4分野で、地域の幸福度がデータで分かる「Well-Being指標」を活用したまちづくりに取り組んでいます。
2023年4月25日(火)には、交通/モビリティ分野において、Well-Beingの向上を考えるワークショップを開催しました。続く2023年7月3日(月)の2回目には、前回の内容を受けて具体的なサービスアイデアを考案しました。
Well-beingを向上させる視点でサービス設計を試みた結果、どのような発見やアイデアが得られたでしょうか? 本記事でレポートします。
※「交通/モビリティ分野」については、2020年4月1日に、官民連携および異業種連携により推進するため「浜松市モビリティサービス推進コンソーシアム(以下、モビリティコンソーシアム)」を設立。地域における移動手段の確立などを通じ、持続可能な都市づくりに取り組んでいます。
まちづくりにデータを活用する重要性
Well-Being指標は2022年7月にベータ版(試用版)がリリースされて以来、進化を遂げています。2023年5月には、85,000人を対象とした一大アンケート調査が行われ、Well-Being指標がアップデートされました。
Well-Beingに関係する多様で詳細なデータが把握できるようになりました。こうしたデータをまちづくりにも生かしていきたいものです。
Well-Being指標の開発・普及に取り組む一般社団法人スマートシティ・インスティテュートの専務理事であり、浜松市のフェローを務める南雲岳彦さんは、Well-Being指標を活用したまちづくりの展望を次のように語ります。
「子供たちの世代に、どんな幸せな暮らしを残したいか──そうした未来のイメージからバックキャスティング(逆算)して、今、このまちにとって必要な取り組みを考えていきたいですね。
Well-Being指標を活用いただくことで、どのような因子が市民のWell-Beingに影響を与えているかが掴めます。因子が把握できたらそこに目標値を与え、目標値を達成するための具体的な施策を考えられます。
このようにWell-Being指標を活用することで施策が立てやすくなりますし、実施した取り組みやプロジェクトは客観的に効果を測ることもできます。次なるアクションにつなげていくための環境が整ったので、ぜひ有効に活用いただきたいと思います」
Well-Being指標を活用したまちづくりは新たな取り組みであり、全国から注目を集めています。本ワークショップには、デジタル庁や他県の自治体の職員も参加しました。
参加者も前回より6名増え、全6チームが構成されました。さぁ、どんなアイデアが生まれるでしょうか?
Well-Being起点のワークショップ!未来思考だからこそ斬新なアイデアが生まれる
参加者は6チームに分かれ、それぞれに設定された市民像(ペルソナ)の立場になって意見を出し合いました。
2回目となる本ワークショップでは、前回までに抽出した“市民像の幸福度につながる主テーマ”から、Well-Beingを向上するサービスのアイデアを考案しました。さらに、市民像がサービスを使用しているシーンをストーリーボード上に描き、仮説を検討・評価しました。
市民のWell-Beingがかなった状態をゴールとし、そのゴールから逆算するかたちで、まちづくりに必要なサービスを考えました。それぞれのチームの発表内容は、以下の通りです。
夫婦のニーズをお互いに知らせるAIチャットボット
「市民像は、8歳と5歳のお子さんを持つ共働きの30~40代夫婦です。夫婦間のコミュニケーションが希薄なため、家事の分散やストレスの発散などが十分にできておらず、家族で過ごす時間を捻出できないことが課題となっています。
そこで、お互いのニーズを知らせてくれるAIチャットボットを考案しました。例えば、一方の負担になっている家事を知らせてくれ、夫婦間のコミュニケーションの足りない部分を補います。これにより、家事分担の偏りが解消され、調和のとれた家族の生活につながります」
時間単位の子育て支援が得られる「みんなのじいじ・ばあば」 検索アプリ
「30代の共働き世帯で、3歳と1歳の未就学児を持つ親が市民像です。日常の買い物などは、主に妻が済ませていますが、未就学児を2人連れての外出はとても大変です。『たまには夫婦水入らずで、美味しいものでも食べに行きたい……』
そんなとき地域の“じいじ・ばあば”の助けを借りられるアプリを考えました。アプリのマップ上に表出する個人のアイコンをタップし、時間単位でお手伝いを依頼できます。このアプリにより、子育て世帯はもちろん、高齢者側のWell-Being向上も期待できると考えました」
シニアコミュニティの活性化を通じた地域ぐるみの子育て環境
「市民像は、2人の就学児がいる世帯です。中でも、1年前に浜松市へ転入したばかりで、地域コミュニティに参加したいと思っているが、きっかけが掴めずにいる人としました。
そこで、地域ぐるみで子育てを支える環境があれば、市民像のWell-Beingに寄与すると考えました。具体的には、公民館で昔の遊び教室や子ども食堂などを開催し、安心して子供を預けられるシニアコミュニティを強化していくイメージです」
ライドシェアを起点とした通勤マッチングアプリ
「市民像が『通勤者』である2グループのうち、『朝の通勤』のシーンに特化したグループです。朝は、とにかく時間がなく、慌ただしいことが市民像の課題です。そんな状態においてWell-Beingを向上するテーマは、『リラックス』だと考えました。
解決策は、通勤マッチングアプリです。その機能は、行き先の近しい人同士で自動車の乗り合いができるというものです。子育てや仕事に関する境遇の似た者同士が、アプリを通じてコミュニティをつくっていきます。ライドシェアをきっかけに、1人で抱え込まないやさしいまちの実現を思い描きました」
運転中を社会貢献の時間に変える、対話型Well-Beingコンシェルジュ
「市民像が『通勤者』である2グループのうち、『夕方の帰宅時』のシーンに特化したグループです。定時で退社し、子供を保育園に迎えにいき、急いで帰宅する。そんな日常が繰り返される中で、いつしか心も体もお疲れ気味に……。そんな市民像のWell-Beingを向上するポイントは、『充実感』だと考えました。
考案したサービスは、『対話型Well-Beingコンシェルジュ』です。車に搭載したアプリが、運転手が通勤時に何気なく発した会話を拾い、対応します。例えば、愚痴を聞いてくれたり、帰り道の途中にあるボランティアスポットを提示してくれたり。通勤をただの移動で終わらせず、社会貢献活動につなげることが目標です」
免許返納後も買い物や趣味を楽しむためのモビリティの拡充
「市民像は、80代前半の女性で免許返納者です。日常生活の中で大きく車に依存しているのは、趣味と買い物。免許を返納した後でも、それらを楽しめるモビリティ環境を整備することが、市民像のWell-Beingを高める要因だといえます。
買い物においては、必要な物資が届くだけでなく、好きな商品を自ら選べることもWell-Beingに欠かせない要素です。趣味においては、同じ趣味を持つ人が集まる場所である公民館に気軽に行けることが理想です」
「Well-Beingなまちの実現のために、自分たちにできることを」参加者インタビュー
本ワークショップの参加者、および共催してくださった企業の参加者の皆さんに感想を聞きました。
HMK Nexus 株式会社 代表取締役社長 内田貴啓 氏
「私が参加したグループでは、80代の免許返納者を市民像としました。実は親族と重なるところも多く、市民像の課題が自分ごとに感じられて勉強になりました。
持続可能な事業にしていく視点でサービスを設計できるのが、私たち民間企業が市のまちづくりと連携させていただく意義ではないでしょうか。浜松市のモビリティコンソーシアムには、それができる企業・団体の皆さんが集まっていると感じます。
私たちも地域のインフラの一部を担う企業として、今日のような場に参加しながら、社会貢献につながるサービスを引き続き検討していきたいと思います」
東京海上日動火災保険株式会社デジタルイノベーション部 石井智也 氏
「まちづくりに関する議論は、得てして自治体の組織内に限られていることが多くあります。しかし浜松市にはコミュニティが育っているため、所属もさまざまな40名近くの参加者が集まり、『市民のWell-Being向上』という1つの目標に向かって議論できました。
このことは、本ワークショップにおける成果の1つだと感じます。今後も、モビリティコンソーシアムの皆さんとともに、浜松市のWell-Beingなまちづくりに貢献していけたらうれしく思います」
一般社団法人スマートシティ・インスティテュート 南雲岳彦 氏
「本ワークショップも2回目を迎え、前回よりも和気あいあいとした雰囲気が醸成されましたね。よいコミュニティができあがっている証拠だと思います。さらに、ここから先へと議論を進める場合には、データを使った分析や仮説検証が必要です。今日話し合ったことを職場にも持ち帰っていただき、議論の輪を広げてもらえたらうれしいです。
また、今日は前回よりも多くの方が見学に来てくださいました。Well-Beingなまちづくりに関する浜松市の取り組みが、大きな渦の中心となりつつあるのを感じた1日でした。まさにやらまいかの精神で、この熱量が全国に伝わっていってほしいと思います」
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全2回を終え、モビリティコンソーシアムというコミュニティがまた一歩、前進を見せたワークショップとなりました。
今後は、サービスの実現化を見据えて議論を進めたい参加団体・企業の皆さんには、モビリティコンソーシアムの幹事企業をはじめ、浜松市が一緒に考えながらサポートを続ける予定です。
浜松市とともにデジタル・スマートシティの取組を推進する事業者を募集中
浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォームは、官民連携でデジタル・スマートシティ浜松の取組を推進していくプラットフォームです。本プラットフォームでは、デジタルを活用し、市民生活の質の向上や地域課題の解決に一緒に取り組んでくださる事業者の皆さんを募集しています(参加無料)。
ぜひ以下のページよりご参加をご検討ください。